2025年2月28日

低コスト×高性能で市場を変える!日米同時リリースの屋内点検ドローン開発の裏側

テラドローンはこの度、開発から生産までを一貫して手がける自社初の屋内点検用ドローン「Terra Xross 1」を日米同時発売しました。

LiDARとビジュアルセンサーを駆使して暗所や粉塵環境といった難しい環境でも安定飛行を可能とした画期的なドローンは、従来機種と比べて約3分の1の販売価格を実現したことで従来の屋内点検作業のあり方を劇的に変える可能性を秘めています。

今回は、開発メンバーとして携わった石橋健太さんに製品化に至るまでの裏側についてお聞きしました。従来にない画期的な製品が出来上がるまでには、「スタートアップだからこそ」「テラドローンだからこそ」実現できた要素が詰め込まれています。

製品に関心がある方はもちろん、大手メーカーに所属しているエンジニアの方々にも読んでいただきたい内容です。「テラドローンらしさ」を感じながら、是非とも最後までご覧ください!

ーーまずは石橋さんの経歴を教えてください。

高専進学をきっかけに、大学院修士課程修了までの9年間にわたって機械工学を専攻。大学の卒業研究で初めてドローンに触れ、修士課程ではドローンのプロペラに関して研究しました。その後、新卒で村田製作所にてエンジニアとして約1年半勤務した後、点検事業部を立ち上げるタイミングだったテラドローンに入社。一時、PwCコンサルティングでドローン関連のコンサル部門を担当した後、2022年8月にテラドローンに再入社して以降は「Terra Xross 1」の開発に携わってきました。

ーーそうした中で今回リリースした「Terra Xross 1」の開発はどんなきっかけで始まったのですか?

「Terra Xross 1」は、屋内点検用ドローンとして「誰でも簡単に飛ばせること」「買いやすい価格帯」をコンセプトとしています。

テラドローンでは2020年頃より、Terra UTドローンを活用した点検サービスを展開していますが、Terra UTドローンはマニュアル操作が必要であり、安全に飛行させるには熟練のドローンパイロットが不可欠でした。これは、事業拡大における大きな課題となっていました。

「誰でも簡単に飛ばせるUTドローンがあれば」という発想のもと、ビジュアルセンサーを活用した他社製のシステムをTerra UTドローンに搭載し、テストを行いました。しかし、粉塵が多い環境下では飛行が安定せず、課題が残りました。さらに、他社製システムに依存すると開発の自由度が低く、価格も高騰するという問題も浮上しました。社内では、「やはり自分たちで作らないとなぜ安定しないのかもわからない」といった声もあがってました。

ちょうどその頃、自社製UAVレーザスキャナの「Terra Lidar」で培った技術や知見が蓄積される中で、「LiDARと組み合わせれば、屋内でも安定的に飛ばせるドローンができるのではないか」といったアイデアが生まれました。

当初は、「小型ドローンに搭載可能なLiDARがあるのか」「開発を進める上でのエンジニアのリソースは十分なのか」などの超えなければならない壁が多数ありました。そうした時に2023年の初めに小型ドローンに搭載可能なLiDARが発売され、開発が本格的に進む体制となりました。

ーー製品化のカギを握るLiDARとはそもそもどんなものなのでしょうか?

LiDARとは、光を使って物体との距離を測定することができるセンサーを本体の内部で回転させることで、広範囲で検知することができるセンサーです。LiDARを搭載しているドローン自体は既に存在しており、マッピング用に使われているものや機体の維持や安定のために使われているものもあります。

「Terra Xross 1」は、他社製品と比べて「暗所環境」「粉塵環境」における飛行の安定性の高さが特徴です。LiDARで得た情報を基に内部のコンピューターで機体の移動量を計算し、ドローンが動いているか静止しているかを認識することで最も難しいホバリング(静止飛行)を可能にしています。

ーーそのほかに技術的な要素で他社製品との差別化を図った点を教えてください。

一番の特徴はLiDARとビジュアルセンサーの両方を採用している点です。基本はいずれか1つを採用している製品が多い中、「Terra Xross 1」はそれぞれの強みをうまく活かすことで、様々な環境でも安定した飛行を実現しています。特にこれまでTerra Droneで蓄積してきたLiDARの知見が活かされている点が大きな強みです。また、必要最低限のスペックに抑え、シンプルな設計にすることで低コストでの提供を実現し、より手軽に導入できるようにしました。

さらに、独自設計の交換可能なケージを採用し、損傷時の交換が容易になったことで、メンテナンス費用を抑えることが可能です。加えて、UI/UXにこだわり、取得した3次元データを簡単にクラウドで管理・共有できる「Terra Xross Cloud」も提供し、効率的な点検を実現しています。

ーー開発を始めるにあたり、どんな切り口でアプローチしていきましたか?

開発当初、市場に出ていた屋内点検用ドローンはとても高価で、ユーザーが1社で複数の機体を所有することがなかなか難しい価格帯でした。このような状況下では、市場としてスケール化が難しい状況になります。

開発にあたり、多くのユーザーにヒアリングしたところ、やはり価格が高いから所有できないだけであることがわかりました。1社で複数台持てる価格になればドローンによる点検サービスは確実に広がります。そこに価値を見い出し、「まずは低価格のものを作ろう」という方針で、開発を進めていきました。

ーー約1年半の開発期間で苦労した点や壁に突き当たったことなどはありますか?

「Terra Xross 1」の開発メンバーはテラドローンの中でもこの分野の知見が豊富なメンバーが集まり、専門性を活かして開発を進めました。そのため、一般的には難しいと思われる課題でも、確かな技術力とチームワークによってスムーズに解決できる場面が多くありました。ただ、煙突やパイプの内部といったLiDARが苦手とする環境での安定飛行は大きな課題の一つでした。この点はビジュアルセンサーで補うことでクリアできました。

ーー実際に製品化された「Terra Xross 1」がもたらす技術的な価値や社会的なインパクトについてはどう感じていますか?

「Terra Xross 1」による社会的なインパクトはかなり大きいと思っています。従来製品の約3分の1の価格帯で展開することで、屋内点検ドローンの市場が一気に拡大するチャンスを秘めています。そうすると、今までドローンを使っていなかった事業者も「自社でとりあえず1台は持とう」と導入を検討する可能性が高まると思います。

日本のドローン業界は、まだ成長の余地が大きいため、私たちは、この「Terra Xross 1」を通じて成功事例を作りたいと思っています。ハードエンジニアはロボットや自動運転に人気が集中しているので、私たちが世界で成功事例を作れば、日本におけるドローンの価値やエンジニアの人気といったものを高められることになりますし、そうなればめちゃめちゃ楽しそうですよね。

そもそも日本では規模のあるメーカーがたくさんいる分、スタートアップでハードを作ることのハードル自体が高いです。スタートアップでモノづくりをしている会社は珍しいと思いますし、ある場合でもロボット分野など一部に限られます。そうした意味でも私たちがドローンを通じて開発を進めることに価値があると思っています。

すでに米国のドローン販売代理店RMUSからも「Terra Xross 1」に大きな期待が寄せられ、契約も締結しています。今後、テラドローンとRMUSは協力して「Terra Xross 1」の販売を促進し、飛行性能の不安定さや高価格が障壁となってドローン導入が進んでいなかった顧客層へのアプローチを強化します。これにより、屋内点検業界におけるドローン普及を推進していきます。


ーーそんな、「Terra Xross 1」を開発したチームはどんな人員体制で進めていきましたか?

ハードの開発は当初2人体制で、途中から3人で進めていきました。アプリやクラウドといった面を含めると、社内の5人と外注先のメンバーまで広がります。ハードの開発メンバーは、Terra Droneのカルチャーが濃いチームだと思いますね。プロダクトに対する意識がとても強いです。少数精鋭で1人1プロダクトといった体制でやっているので、各々オーナーシップがとても高いと思います。

実際、インターン生や外部の人が「大学の研究室の雰囲気に似ている」と口にする機会も耳にしてきました。雑多な部分はありますが、自分たちの興味のある方向に付き進めていける点は本当に働きやすいと感じています。

ーーチーム内で学びや成長の機会という点でいえばどうですか?

私の場合だと、もともとメカやロボが専門領域なので基板設計の経験がなかったのですが、仕様書から自分たちで基板を起こす輪読会が社内で企画されたことがありました。参加したエンジニアがそれぞれ調べたものを持ち寄って共有した後、その集大成として実際に私が基板を起こした時に初めてながら意外とうまくいったようなことがあります。

そうした意味でみんなが自発的に、勉強をしたり、意見を交換したりする環境が整った組織だと感じますね。裁量権も各個人にあるので、会社にとって必要なスキルであれば自由に動ける点がいいところですね。

ーーちなみに、石橋さんの同僚になるとどんなメリットがありますか?(笑)

毎週タイ料理を一緒に食べに行けることですね(笑) ただ、最近あまり行っていないんですよね… チームでは毎週金曜日にランチに行きますし、お互いの仲はとてもいいです。フロアで頻繁に私の笑い声が響き渡ってクレームが入るんですけど(笑)、それくらいに風通しがいい環境だと思います。そんな環境なのも、それぞれのメンバーが各自で強い領域を持っていることで互いにリスペクトしあえるからだと思います。

ーーそんな石橋さんから、最後にこれからキャリアチェンジを考えているエンジニアたちにメッセージを。

大手のメーカーでモノづくりをする際、「お客様との距離が遠い」ことで自分が作っているものが社会でどう使われているかを実感しづらいことがエンジニアの悩みとしてあると思います。テラドローンのようなスタートアップで、かつ、サービスも展開している会社だと、自分が作ったものがすぐ現場で運用されるし、お客様や社内のフィードバックもすぐに届くといったサイクルがとても早く回る点がメリットにあります。

このモノづくりのスピードはスタートアップならでは、というよりもテラドローンならではと言えるかもしれません。そうしたところに興味がある人にとって、めちゃめちゃ楽しめると思います。大手のメーカーで何となくくすぶっている人には、ぜひテラドローンにチャレンジしてほしいですね。