2025年6月27日

UTMの可能性を先進国から途上国へ。経済産業省の実証事業を経て、プロジェクト責任者が語る今後の可能性

こんにちは、テラドローンHR/PRチームです。

テラドローンでは経済産業省が令和5年度(2023年度)の補正予算に盛り込んだ「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金」の採択を受け、インドネシアを舞台に現地でのUTM(ドローン運航管理システム)の実用化に向けた実証事業を展開してきました。

テラドローンは既に、インドネシアにおいてパーム農園での農薬散布や監視システムなどドローンを活用したさまざまな取り組みを展開していますが、UTMに関する本格的な取り組みは今回が初めての試みです。

先進国を中心に導入が広がっているUTMを、これからグローバルサウスの各国に広げる意味でも今回の実証事業は大きな意味を持ちます。

そこで、今回はこの事業に責任者として携わった運航管理事業部 山口優介さんにお話を伺いました。

「UTMとはそもそも何か?」といった現地での認知度に対し、どんな取り組みを進めていったのかを中心に語っていただきました。海外ならではの実証の難しさについても語られていますので、ぜひ最後までご覧ください。

ーーまずはこれまでの経歴を教えてください。

新卒で外資の電機メーカーに入った後、主にインドネシアのNGOなどで国際開発の分野に携わっていました。ドローン業界には約5年前から入り、事業開発や事業推進など新しいことを生み出すことを幅広く手がけていました。

テラドローンはドローン業界にいたこともあってその存在も知っていて、それこそグローバルで挑戦をしたいと思っていたこともあり、2024年11月に入社しました。


ーー入社後、グローバルサウスの案件を任されることになりますが、そもそも「グローバルサウス」とはどういったものでしょうか?

GDPが高いアメリカやヨーロッパなど地図上で見ると北側にある国々に対し、グローバルサウス諸国とはインドやアフリカといった主に南側にある途上国を指します。これらの国々は色々な課題がありながらも人口が多く、若い人の比率も高いため、国力が高まって将来的には先進国を追い越す可能性を秘めています。

そうした国々に対し、日本政府は経済産業省を中心に、日本の民間企業が持つ技術の海外展開を支援する形で積極的にアプローチを進めていますその補助金事業の1つにテラドローンが採択された形となりました。


ーー今回の補助金採択に関して進めるのは苦労されましたか?

私どもが応募した公募は、144件の応募数に対して採択数が36件で採択率は25%でした。想定していたよりも採択率は低かった印象です。申請までには事務局側と何度もやり取りしながら進めていきました。

その中で採択された理由を自分たちで紐解くと、UTM(ドローン運航管理システム)は将来多数のドローンが飛行する中で重要不可欠な存在になりうる可能性を持つもので、いわばインフラのような側面があり、日本政府としてもインフラ輸出は国の根幹を支えるものとしての認識が響いたのかなと感じています。

もう1つ、今回の取り組みを通じて日本にどれだけ還元されるかの要素も大きかったのかと思います。日本国内ではドローン産業が盛り上がっていますが、規制が多いことでまだまだな部分もあります。海外でのさまざまな実績を日本に持ち帰り、日本のドローン産業をより高めていくことも1つの目的だと考えています。


ーー採択された案件で実際にどのようなことを進めていきましたか?

今回、インドネシアでUTMの導入からオペレーションに関わる一連の展開を進めていきましたが、現地ではそうした取り組みが初めてだったのでゼロから始めました。UTMを使って実証実験まで進めることが補助事業のゴールとなっていたので、インドネシアの政府関係者や事業者を巻き込みながら進めました。そもそも現地の認識は「UTMとは何か?」という状態だったので、最初は現地の人たちに基礎の部分を伝えることから始めました。


ーー現地でのアプローチはどのようにして進めていきましたか?

実証にあたっては、テラドローンのグループ会社である現地法人のテラドローンインドネシアが、現地での許可取りや実証実験の場所の選定、関係者の呼び込みなどの役割を果たしてくれたことが大きかったです。また、実証シナリオ作成や、UTMの連接、現地化といったところは、ベルギーのUniflyのチームと連携して行いました。

実証自体もさまざまなユースケースを想定しながら展開していきました。特に、インドネシアでは農業や点検の分野を中心にドローンが活用されているので、そうした部分のUTM活用を重点的に想定して進めていきましたね。


ーー現地で実証を進めていく中での感触はどうでしたか?

テラドローンインドネシア側も初めての取り組みで、わからないことだらけだったかと思います。そうした不安点を、顔を合わせていくことで解消させながら徐々にスムーズに進めていきました。屋内、屋外の実証を行いましたが、政府関係者だけでなく、各空港のANSP(航空管制サービスプロバイダー)の担当者も来てくださり、感触もよかったと思います。


ーー今回の事業を通じてどんな部分が最も苦労しましたか?

実証実験をする際の集客の部分ですね。KPIとして200人の集客を目標としていたのですが、1か月前の時点で数十人ほどしか集まっていない状況でした。各自のコネクションを使ったり、情報発信をしたり、一人ずつ個別にアプローチしたり、電話などとありとあらゆる方法を試みることで、なんとか最終的に220人ほどを集めることができてホッとしたことを覚えています。

ーープロジェクトの責任者として今回の実証がどんな意味を持つと思いますか?

実証にはインドネシアだけでなく、周辺国(タイ、シンガポール、カンボジア、パキスタン、マレーシア、インド、UAE、サウジなど)のCAA(民間航空局)をはじめとした、関係者なども来てくださったことが大きな意味を持っていると思います。「UTMって何?」といった人たちに初めてUTMの活用状況を見せられたことで印象を残すことができましたし、アジア市場にUTMの導入を進める第一歩になったのかなと感じています。

今回実証に参加した各国の方々も、ドローンの活用が今後進むと理解してくださり、「ドローンが多く使われるようになったら確かにこういうシステムが必要だよね」といった声もいただきました。特に、今回参加した方々は航空関係者が中心だったので、航空機と同様にドローンが数多く飛ぶと、管制システムやモニタリングの機能が必要であることもイメージしてもらいやすかったといえます。そうした意味でも、今後に向けて今回現地で実証した意味は大きかったです。


ーー最後に、今後どのような人とこのようなプロジェクトを進めていきたいですか。

オーナーシップを持って、あきらめずに取り組める人だと思っています。ドローン産業はまだ新しくて、実際のところ現状では、お金を生み出す事業になっていきづらいと考えています。だからこそ、地道にメリットを探したり、いろんなビジネスモデルを試したりしながら、産業自体を一緒につくっていく気持ちが大事です。こうした過程では、自分の業務の範囲を超えて動いたり、考えたりする場面が多くあります。そのため、常に学び、柔軟に適応しながら行動できる方とご一緒できればと思います。